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あなたの半径5メートルの悩みに答える「哲学」3選

バタイユ、フーコー、ドゥルーズ

③「ドゥルーズ」が問う「君たちはノマドになれるか」

■「トゥリー」よりも「リゾーム」

 ジル・ドゥルーズ(1925〜1995)はポスト構造主義者の代表格の一人に挙げられます。「ドゥルーズ=ガタリ」として、精神科医のフェリックス・ガタリ(1930〜1992)と何冊か共著を出版しています。

 ドゥルーズたちは多くの言葉を作っています。「トゥリー(ツリー)」と「リゾーム」も彼らの造語です。

 トゥリーとは、樹々のように上から下までしっかりした体系ができあがっている構造のことです。上下関係や指示系統がかっちり決められている軍隊などはいかにもトゥリー的です。

 一方、リゾームは地下茎や樹々の根のように、上下の関係なく、周囲に網の目のように増殖していくような構造のことです。組織を考えた場合、指示命令が秩序よく、スムーズに行き届くのはトゥリーです。しかしトゥリーの組織では、個人は抑圧され気味で、息苦しさを感じるかもしれません。リゾームはトゥリーよりも人のつながりが自由で、他者と多様な形で連携し、多方面に広がっていくことができます。インターネットの世界も、まさにリゾームです。

 ドゥルーズたちは、これからの人間や社会はリゾーム的な思考になることを勧めました。

■「ノマド」になれるか

 ドゥルーズたちはノマド的な生き方も推奨しています。

「ノマド」は、英語で「遊牧民」の意味です。一般的に定住民は、限られた土地に住んで、閉じられた人々と閉じられた交流を行います。一方、ノマドは制限のない空間を漂い、開かれた交流を行います。

 働き方でいえば、ノマドは特定の会社に属さずに、そのときどきでいろいろな人と交流して、アイデアを出し合ったり、新しいプロジェクト起こしたりするようなスタイルです。

 ノマド的な生き方、働き方って、かっこいいな、と思う人もいるでしょう。毎朝、出社しなくてもいいし、上司や部下に気を遣うこともないだろうし、わがままな客にペコペコ頭を下げる必要もなさそう。わが道を行く自由人という感じで、憧れる。……そんな風に思う人もいるかもしれません。

 よし、これからはノマドで生きるぞ。会社なんか、もう辞める。そう決意して、実行に移そうとしても、実際にはフリーターのようになってしまう人もいます。アルバイトを掛け持ちして、生計を立てるようになって、イメージしていたノマドとはずいぶん違ってしまう場合もあります。

 日本では、所属する場所を持たないことはかなり不自由になってしまうという現状があります。新しいあり方や生き方に理想を追い求め、取り組んでみたものの、行き詰まってしまって、逆に不自由な人生になってしまうという現実もあるのです。

■差異を認め合い、多様性ある社会へ

 リゾームやノマドは、しがらみや差別、排他性を排除することにもつながります。人の関係を上下でなく、もっと自由に、大らかでいいじゃないか、という発想にもなります。

 リゾームでノマド的に生きれば、トゥリーでは出会うことができなかった人と巡り合い、ワクワクするような仕事や遊びをする機会も持てるようになるかもしれません。

 さらに、リゾームやノマドは、それぞれの比較や社会の中にある差異や多様性を認め合うあり方でもあります。

 例えば、同性愛者に対する差別が世界的に長く続いていました。しかし最近は、同性愛に対する理解が進み、単なる差異、ちょっとした違いにすぎないと考える人が増えています。法律を変える国も出てきています。

 多様性を認め合い、もっと自由に、開かれた社会を生きよう。ドゥルーズたちが発したメッセージにも学ぶべきところはたくさんあるでしょう。

『使う哲学』より構成〉

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齋藤 孝

さいとう たかし

明治大学文学部教授。



1960年静岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学大学院教育学研究科博士を経て、現職。専門は教育学、身体論、コミュニケーション技法。



250万部を超えるヒットとなった『声に出して読みたい日本語』シリーズ(草思社)のほか、『雑談力が上がる話し方』(ダイヤモンド社)、『大人の精神力』、『10歳までに身につけたい「座る力」』(いずれも小社刊)など著書多数。


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